今から約10年前に、人体は、37.2兆個の細胞から構成されるという計算結果が報告されています。学会誌『人体生物学紀要』(AnnalsofHumanBiology)2013年11・12月号に掲載されていますが、当時は、60兆個の細胞から構成されるのではなかったのか?と少し関係者の間では話題となりました。
イタリアの生物学者エヴァ・ビアンコニを筆頭/著者とするチームが、「人体の細胞数の推定」を各臓器単位で算定しそれらの細胞数により全細胞数の計算にトライしています。(体重75Kg成人)現在、人間の細胞は、270~273種類あると言われています。赤血球は、その中で26兆個と計算されていますが、これは、体重の1/13が血液であると言われていますので、日本人の赤血球数/RBC基準値が、377~555 x104/μL(男性)・355~503 x104/μL(女性)ですから大体合っている計算結果と言えそうです。ご存知の様に、ATP(アデノシン三リン酸)生成には、酸素を必要とします。酸素を運搬するのは血液中のヘモグロビンですが、赤血球中にあって個人差もありますが、約2.8×108個/赤血球1個と推定されています。つまり、日本人のへモグロビン(Hb):基準値 男性14~18g/dL、女性12~16g/dLは、この赤血球数との関係と個体差はありますが大体一致しています。赤血球1個の中にヘモグロビン量は2億8,000万個(重量比:赤血球95%→ヘモグロビン, 約体重75kgw)となります。余談になりますが、基準値は、年齢・環境等の影響もありますので、1つの参考値として考えて下さい。(それは本当?話が怪しい?と思った時の思考実験には有効ですし、嘘!本当?の自分の「科学的」判断の役に立つと思います。)
ATPは、植物もバクテリア等の全ての生物はこのATPという小さな分子をADP(アデノシン二リン酸)とリン酸に加水分解することで生まれるエネルギーによって活動していると考えられています。ATPは、エネルギーと交換できるお金の様にも見える事から、生命活動を支えるエネルギー通貨と呼ばれる事もあります。ATP合成酵素が回転して、ミトコンドリア膜の内外の水素イオンの濃度差を利用してナノモーターの様な機構がATP合成を実現している事が解明されています。人間のミトコンドリア量は、体重の10%程度と推定されていて、体内でのATP蓄積が出来ない事もあり、1日分のATP産生量は体重相当程度(50~100kg)と言われます。(京都産業大学 総合生命科学部 生命システム学科 吉田 賢右教授他)
細胞が元気でいるには、細胞も生き物ですから、新鮮な酸素と十分な栄養を取ることが必要であり、健康であればこれが可能です。新鮮な酸素と栄養は血液により運ばれますが、この機能と経路を維持しているのが血管になります。全身からの炭酸ガスを多く含む静脈血は、一度心臓に戻った後、肺で炭酸ガスと酸素の交換を実行します(ガス交換)。その後、酸素を多く含んだ動脈血が心臓から全身に送り出される事になります。肺循環(小循環)は、心臓 → 肺動脈 → 肺 → 肺静脈 → 心臓への一連の流れとなりますが、1周する時間は、約3〜4秒間程度の極めて短い時間で酸素・二酸化炭素の交換を実行します。血液循環は、心臓のポンプ機能と体内を循環する血液により、全身の各器官や細胞の隅々へ新鮮な酸素や栄養素を運び、更に、不要となった炭酸ガスや老廃物を受け取って、からだの外に排出する為に絶え間なく血液循環を繰り返します。体循環(大循環)は、心臓 → 大動脈 → 動脈 → 毛細血管 → 静脈 → 大静脈 → 心臓の一連の流れとなります。この体循環の1周する時間は約20秒と言われています。
酸素の摂取能力指標にVO2max(最大酸素摂取量/率)があります。一般の人にはあまり馴染みが無いかも知れませんが、アスリートは、1つの指標としてこれを参考にしています。心肺機能を向上すると運動の代謝能力が向上してこの効率が格段にUPしますが、最終的には、細胞中のミトコンドリアに届きエネルギー通貨と呼ばれるATP産生が実行されます。勿論、赤血球中には、ミトコンドリアが存在しませんので末梢血管(毛細血管)の先の大切な細胞(顧客)迄、酸素O2はキッチリ届けられるのが普通です。もし、血液の流れが途絶えると、酸素と栄養が届か無い事になりやがて細胞は死んでしまいます(壊死)。
細胞の死が病気の始まりと言われる理由は、体内の必要臓器が徐々に機能低下or不全となり、衰弱して死に至る事が多いからです。新型コロナ感染症は、肺炎以外にも脳梗塞・心筋梗塞・多臓器不全や味覚・嗅覚、原理的には聴覚・視覚にも影響が出る「血栓症の病気」である事が多くの人の犠牲と研究者・医療従事者の世界的レベルでの努力・研究により、現在では判明しています。
例えば、腎臓病の場合は、腎臓の細胞の40%が死んでしまった時(or機能低下)、初めて腎臓病と診断されます。勿論、腎臓病と正確に診断するには、尿成分やその他の指標・期間等を総合的考察する事になります。しかし、実際、自覚症状が無い事から早期の段階で病院へ行こうとする人は多くありません。この結果、自覚症状が出た時には、腎機能の大幅低下or消滅直前で、即、人口透析という事になりがちです。私たちは、37.2兆個の細胞の中で、26兆個の赤血球が割り当てあれている事や更に酸素を運搬する血中ヘモグロビンの数がその2.8億倍近くもある理由を考える事が、健康や寿命を考える時に極めて大切である事を思い出す必要があります。因みに、ヘモグロビンHb1個で、酸素分子O2を4つ運搬する事が可能です。勿論、体温やヘモグロビンの数、血液のpH値で変動します。日本の成人男性の基準値は約16g/100mL、成人女性で14g/100mLとなっています。ヘモグロビンHb1gは、約1.34mLの酸素と結合できるので、血液中の酸素量は、成人男性:21.44mL/血液100mL・成人女性:18.76mL/血液100mLとなります。ヘモグロビンHbの動脈中の酸素飽和度:95~99%、静脈中の酸素飽和度:70~75%、毛細血管中の酸素飽和度:85%前後と言われています。酸素飽和度が低下するとチアノーゼとなり、血色が紫色に変化する事が知られていて、ご存知の様にリスクがあります。酸素の細胞への供給量低下時は、自律神経が反応して、心拍数が上昇して酸素不足を補う形になります。夏は、気温がUPするので体温も若干上昇して同様に心拍数UPが起こります。同様に、ペットの犬の呼吸数もややUPする傾向があります。勿論、人間の場合は、健康であれば、腹式呼吸やリンパ呼吸、深呼吸をすると心拍数はやや低下します。これは、スマートウォッチやパルスオキシメータでもSpO2の値が上昇する事で確認出来ると思います。自律神経の制御は、意図的には出来ないとされますが、交感神経・副交感神経は、呼吸や瞑想により反応が変化して副交感神経をある程度抑制出来る事が知られています。
ミトコンドリアの数は、その細胞の種類により幅がありますが、筋肉細胞(遅筋20%・速筋10%)には比較的多く存在していると言われています。これらのエネルギー消費の多いとされる細胞(心筋細胞、骨格筋細胞、神経細胞他)には、100~3千個程度の範囲で数千個程度は存在していると推測されていて、専門家にもよりますが、人間の体重の10%近くがこれに相当すると考えられています。有酸素運動をさせたマウスの実験では、2時間程度の時間で細胞内のミトコンドリアが融合してその数を増加させる事が観測されたとの報告があります。ミトコンドリアの増加・減少は、結合や融合と細胞死の制御と関係していて、あまり運動をしない生活をすれば、ATP生成の必要性も低下しますので1ヶ月程度で減少する事が知られています。また、ミトコンドリア量が増加すれば、血液中の赤血球数やヘモグロビンの数もある程度増加して、安静時心拍数や運動時心拍数は適度に低下する事が確認出来ます。また、運動強度にもよりますが、ややきつい運動をして140~170拍/分にUPしても安静時心拍数に戻る時間が短くて済む様になります。勿論、運動後に深呼吸をすれば、必要とされる酸素の供給量が増加するので、短い時間で通常値に戻ると思います。これは、早歩き~スロージョグ~ジョギング~ウィンドスプリント/ラニング~ハイペースラニング/レペティション等の運動負荷をUPさせると徐々に安静時心拍数~運動時心拍数として数値が大きくなって行きます。スマートウォッチがあれば、その走行1km当たりの時間表示と心拍数が記録されますので、数週間~数ヶ月の単位で比較すると血液検査前に体内の改善状況のイメージがある程度、把握出来ると思います。