Commentary

2024 / 1 / 9

 

有酸素運動とミトコンドリア活性向上の秘密

 


ミトコンドリアは、心筋・骨格筋を中心に細胞全体に分布しています。特に、筋肉細胞である遅筋(赤系)に20%程度、速筋(白系)に10%程度分布しているという専門家もいます。ミトコンドリア活性UPと量を増加させるには、ビタミンやミネラルを摂取して有酸素運動の実践がポイントになります。

ご自分のBMI値や筋肉量・心肺機能(肺・肝臓・腎臓・血液の質)を考慮して、スロージョグorジョキング・ウィンドスプリントと徐々に体が慣れる様に運動強度を変化させると安全です。過去、運動経験があったとしても市民ランナーやランニングトレーニング関係の運動情報を時々チェックすると安心です。 3~5年間以上、過去一切運動をしていない人or BMI値が26~27以上の人で年齢が40歳後半~の人は、怪我や故障を避ける意味で膝や足首への負担がミニマムになる走り方やラニングシューズを準備する事が大切です。特に、100mを軽く走っただけで心拍数が120前後迄UPする人は、早く歩く or スロージョグを300~500mで3~6分間を数セット/回から初めて、体調や心拍数をチェックしながら徐々に距離とセット数を調整しながら運動強度をゆっくりUPさせると安全に健康効果を確認出来ます。 勿論、サイクリングや縄跳び、テニス・水泳等のスポーツでも良いかも知れません。ジムへ通っている方は、トレッドミルを利用するケースが多いと思いますが、筋肉への負荷も単調であり室温も一定である事から、安全ですがバランス感覚も含めて、アウトドアに比べるとやや不利です。 フランクフルトのスポーツと健康長寿の関係を調査したレポートでは、全く運動をしない人に比較して+2年間程度の効果しか無いという事です。テニスの場合は、+7年間と健康長寿に効果があるとされていました。 HIITやサーキットトレーニングも効果的ですが、アウトドアでの運動を取り入れるとより効果的だと思います。それから、ランニングや陸上競技専用にデザインされている運動コース(競技場)は、フラットで足への負担も少なく、タイムも出しやすいとは思います。しかし、整地されていない普通の森林コースや散歩コース or UP/DOWNコースは、海外ではマラソンランナーの練習に推奨されていて人気です。

勿論、海外での調査結果ですし、対象者の生活習慣の影響もあり参考程度ですが、健康と運動を考える上で1つの材料になると思います。以下、初級~中級者の参考としてエクササイズに利用して下さい。

ピッチ幅は、身長x 0.45 m程度とされています。日本の横断歩道の白線のパターンが、45 ~ 50 cm とされています。勿論、歩く速度や走るペース(ピッチ)によっても変化します。マラソンランナーでは、中級レベルでピッチ SPM(歩数/分間)が、180 あたりが平均的で良いと言われています。

市民ランナーでレースの上位を狙っている人は、これ以上だとは思いますが、健康目的の人ではウインドスプリントと呼ばれる軽く流すというペースでも160~170 あたりと想像します。アスリートの場合は、恐らく180~200あたりでも余裕かも知れません。

過去42.195 kmのマラソンでは、男子→ 2:58’50@1896年Spyros Louis GRE … 2:08’38@2020/2021 Eliud Kipchoge KEN・女子 → 2:24’52 @1984 Joan Benoit Samuelson USA … 2:27’20 @2020/2021 Peres Jepchirchir KEN が歴代オリンピック記録となっています。2時間8分38秒は、単純計算で平均すると3’57 min’sec/kmとなり4分間を切る速度となります。マラソンの場合は、最初はスピードがあり後半はややペースが低下する傾向がありますからこれより速いペースで走る能力がある事になります。18.3 sec/100m のペースは、ピッチ幅が 1.0 mの場合、197 SMPという計算になりますし、これを2時間以上継続可能なATP消費量は驚愕する値としか思えません。健康目的の場合は、最初1km程度から始めて、2~3kmを3~4回/週と5~6kmを時々1~2回/週でも十分かと思います。但し、心拍数が110~120/min と130~150/min程度をインターバルで、4:1~3:2 or 2:3と血液改善やミトコンドリア量の増加に合わせてあまり無理をせずにエクササイズとして取り入れると良いかも知れません。以下に参考表を示します。(初級~中級レベル:最初は心拍数がUPしても → 練習で低下)

VO2max(最大酸素摂取量)は、ランニングの好きなアスリートや市民ランナーには良く知られています。また、新型コロナ感染症が世界的に拡大する中で、SpO2(酸素飽和度)がパルスオキシメータ利用増加と合わせて注目される様になりました。これは、赤血球中のヘモグロビンの酸素結合度を%表示したものです。99~98%(稀に100%)は、その人の赤血球中のヘモグロビンが酸素をどの程度捕まえているのかを示す指標となります。SpO2は、現在の赤血球中のヘモグロビン酸素結合度という指標であり、心肺機能が改善されても安定して99%(時々100%)を示すだけであり、心肺機能低下の参考にはなりますが、改善を示す指標としては有効ではありません。

これに対してVO2maxは、酸素が筋肉に供給され、エネルギーを生成するために酸素が必要な運動時の最大能力を示しています。少し乱暴ですが、SpO2→自動車の燃費・VO2max→エンジン排気量に例えられる事があります。VO2maxは、計算により概算ですが数値が分かります。VO2max = 15 x mHr x rHr mHr:最大心拍数(220 – 年齢) rHr:安静時心拍数 (スマートウォッチでも数値は得られます。)

VO2max の例

一般 男性
一般 女性
市民ランナー
トップアスリート
オリンピック選手
➔ 40~45 mL/kg/min
➔ 35~40 mL/kg/min
➔ 50~70 mL/kg/min
➔ 72~80 mL/kg/min
➔ 80~90 mL/kg/min

年齢が、80歳以上の場合は、90~99歳の「標準」あたりを目標にして、VO2maxのUPを無理せずにゆっくり達成してみて下さい。83、85歳時に最高齢完走者のギネス世界記録に認定・更新している稲田弘氏(90歳)千葉県八千代市は、現在も健康でトライアスロンを継続していると紹介されました。稲田氏が、トライした「アイアンマンレース(世界)」は、自信のある出場者でも途中でリタイアする程過酷なレースと言われていて、水泳3.8km、自転車180.2km、フルマラソンと同じ42.195kmの計226kmとなりますので、高齢での完走は、従来の常識を超えたと評判になり注目されています。

86歳時の稲田氏の心肺機能や走行能力は、VO2max:43.6・AT値:141 bpm・AeT値:105 bpm・最大心拍数:150 とされています。40歳代では、高いVO2max能力、50歳代では、優秀なVO2maxに相当する能力とされています。フルマラソンであれば、5時間を切って完走する能力があるとされています。
参考 →86歳アイアンマン世界王者 稲田弘さんに学ぶ。Vol.3<ラン>VO2MAX40~50代の秘密は?

運動科学やラニングで心肺機能を向上させる優れた論文や書籍がいくつかありますが、その中でも多くの人が参考にしているのが「ダニエルズのランニング・フォーミュラ」という書籍だと思います。勿論、優れた科学的な論理は、色々あって自分に合うor合わないという部分もあるかと思いますが、VDOTというVO2maxと関係する指標は、初級~中級ランナーの参考になると思われますので、以下、参考となる表を示します。ピンクのハイライトは、表に無いので補完して計算しています。また、VDOTのランクも初心者向けはみつからなかったので、同じ様に外挿して計算しています。そういう意味で、参考程度としての数値とお考え下さい。(E: 軽いジョグ、M: マラソン走行、T:閾値走行)

100 m→30秒間を切る速度で走るペースであれば、健康度UPであれば十分OKと思われます。VDOT 50~60 は、100~300 mしか走らないのであれば、達成可能かも知れませんが、1.0~5.0~10.0~15.0 kmの距離をこのペースで走行するのは厳しいと思います。オリンピック選手は、スタートした直後はこれより速いペースで簡単に走行する事になります。市民ランナーでもこのVDOT 60のペースをある程度維持可能であれば、上位入賞は十分可能かも知れません。最初の段階では、無理をせずにVDOT 20~40あたりを段階的にUPして行く事で健康維持・向上には十分かと思います。

ミトコンドリアは、ご存知の様に動物細胞だけでは無く植物細胞の中にも多く存在します。植物の場合、ミトコンドリアは、植物細胞内でエネルギー生産、代謝、葉緑体のストレス緩和等の重要な役割を担うと考えられています。人間の体内にある「ヘム」と植物の光合成に利用される葉緑素「クロロフィル」は、テトラピロールと呼ばれる分子が環状に結合して Mg や Fe 原子を利用して光合成(明反応・暗反応他)を実行したり、ヘモグロビンとして酸素運搬をしたりしていますが、植物は種類によりこれらを使い分けている様です。また、植物の場合、光合成が光の強弱や酸素・二酸化炭素濃度、気温の影響を受けて、状況によりモトコンドリアのATPを利用する経路がバックアップされていると専門家は推測しています。興味のある方は、最近の専門家の研究論文や書籍・解説、WEBを参照して下さい。健康とミトコンドリアの興味深い関係を色々と知る事は、あなたのQoL向上に役立つと思います。時間の無い方は、AxHELP「健康サービス」のテストマーケティングへの参加を希望して下さい。条件が合えば、タイミングにより参加チャンスがありますので、色々とご自分の健康UPの体験を通して、健康へのヒントを得られると思います。勿論、時間とコストの節約にもなります。

また、老化との強い相関がある事も報告されています。人間は、健康であれば、有酸素運動をすると多くの酸素を必要として体内で不要となる二酸化炭素を排出します。この酸素消費と二酸化炭素排出が、ATPを生成するミトコンドリア内のクエン酸回路/TCA回路 or クレブス回路(現在、海外のMDや研究者は、発見者に敬意を示す意味なのか… “Krebs Cycle”/クレブス回路と言う人が多い印象です。)と関係しています。ミトコンドリアのATP生成では、細胞内で活性酸素が生成されます。活性酸素は、細菌やウィルスを攻撃するのにも使用されているので適量での産生は有用であるとの見解もあります。しかし、活性酸素が多くなると正常な細胞含めて老化を加速させる要因になる事が報告される様になり、これを防ぐ意味でビタミン類(ACE,BDE他)やミネラルを摂取する事が良いとされています。加齢が進み老化が早い人達は、抗酸化物質の体内量が大幅に減少している事が分かっています。また、数年以上前に、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の体内での減少が老化を加速している(多ければ抑制)とのマウスでの研究があり、これを体内で産生させてサーチュイン遺伝子(長寿)をONにさせるNMNサプリが富裕層で人気になっています。但し、人間への効果は、これからになりある程度技術革新や量産効果が期待出来れば、数万円/1ヶ月という価格も低下して行くのでこれだけに頼らない選択肢も考えた方が経済的かも知れません。実際、このNMNサプリを取らなくても百歳を超える長寿者は、9万人を超えていますので、一択では無いのは明らかですし、逆に、その効果がある程度あったにしても、NMNサプリだけで健康長寿が簡単に実現するという結論にはならないと予想する専門家もいます。

クエン酸回路は、1930年にAlbert Imre Szent-Györgyi氏/博士らの研究により知られる様になり(ビタミンCの特定他)、1937年にノーベル賞を受賞しています。その後、Hans Adolf Krebs 氏/博士and William Arthur Johnson氏/博士らにより、この年、クエン酸回路が明確に解明されています。1953年には、この二人もその功績によりノーベル賞を受賞しています。“Krebs Cycle”/クレブス回路は、その後この功績によりクエン酸回路/TCA回路の別称としてMD・研究者により使用される様になりました。

ミトコンドリアは、独自のゲノム情報/DNAを持ち母系遺伝(生まれた男女が母親由来のミトコンドリア遺伝子を引き継ぐ事)である事が知られています。

過去に、ハワイ大学のレベッカ・キャン(Rebecca Cann)氏は、カリフォルニア大学バークレー校のウィルソン(A. Wilson)氏、ストーンキング(M. Stoneking)氏らと共同で、出産後の妊婦からの胎盤を材料として研究を行い、米国に住むアフリカ系、欧州系、中東系、アジア系の妊婦、147人の胎盤のミトコンドリアDNAを抽出して調べた結果、現代人のミトコンドリアDNAの持っている変異は、20万年前にアフリカにいた一人の女性のミトコンドリアDNAに由来するという結論(20±4万年の差)を出して、この研究の成果を1987年の全米人類学会において発表しています。そして、激しい論争となりました。

1988年1月には、『ニューズウィーク』誌がこれを特集した事もあって、「ミトコンドリア・イブ」が少し誤解されて世界に広まったとされています。これは、「現生人類の最も近い共通女系祖先」を持つ事では正しいのですが、1人のイブと1人のアダムから人類は始まったとする説とは少し違っています。ご存知の様にY染色体は、男性側だけに引き継がれますが、ミトコンドリア同様に重要な歴史と言えます。現在、Y染色体を含めた形で、人類の移動や分布を考える事が科学的アプローチとなりつつある様です。

ミトコンドリアのゲノム情報/DNAは、母系遺伝であり、DNAバーコードと呼ばれる分類にも利用されて研究が進められています。DNAバーコードは、カナダ・ゲルフ大学の P. Hebert 博士によって提唱された考え方であり、動植物昆虫等の生物全体の分類や系統の確認には、科学的で有用だとされています。

DNAバーコードでは、動物:cox1/ミトコンドリアDNA遺伝子、植物:matK, rbcL/葉緑体DNA遺伝子を利用しています。余談ですが、昆虫の場合は、ミトコンドリアDNAが利用されていますが、いくつか問題があり新しいゲノムでの分類が新提案されています。

以下、人類がゲノム解析の観点から、移動したと想定される世界地図となります。日本人のゲノム解析は、いくつか紹介されていますが、縄文人と渡来人の混血が九州・四国・中国・近畿・中部・関東・東北・北海道とパターンは分かれるものの混血が進んで行ったのでは?と推測する専門家が増えています。

勿論、世界規模での移動の結果、ユダヤ系(男系Y染色体のD2タイプのYAP遺伝子が日本人とユダヤ人に共通)や縄文人が東ユーラシアの中でも飛び抜けて古い系統にある可能性のいくつかは議論されています。但し、ゲノム情報をどう近い遠いと混血のプロセスや歴史と流れについての判断については、専門家の間でも色々と可能性についての議論が残っている様です。