Commentary

2024 / 2 / 21

 

癌化と老化を抑制する 細胞の代謝

 


老化は、個人差(個体差)も大きく色々な要因で進行する事が知られています。

現在は、老化度示す指標をある程度把握する科学的な試みが増えてきています。血液データでは、総コレステロール値、アルブミン値、血中ヘモグロビン値、腎臓の機能を見るeGFR値が良く知られています。動脈硬化度や動脈硬化危険指数は、老化との相関が指摘されています。体のBMI値、筋肉量や質(骨格筋)、内臓脂肪量、水分、体組成はチェックの対象になります。また、バイタルでは、血圧や安静時心拍数、SPO2やVO2 max老化のバイオマーカーとしては、性ホルモンであるエストロゲンやテストステロン、IGF-1、ビタミンDも参考にされています。また、体温はATP生成に関係するミトコンドリア活性とも関係があり、免疫機能との関係もある事から老化が進むと低体温傾向を示す事が知られている。また、最近、アディポネクチンは、血管修復作用や脂肪燃焼作用、血管拡張作用があるとされていて、糖尿病・高血圧症・メタボリックシンドローム・動脈硬化の予防効果があるとされて注目されています。(ニュージーランドの研究報告では、1年間で0.4歳~2.44歳の生物学的な差(若いor老化)があるという事が知られています。)

老化 変性関節症 (サルコペニアorフレイル)

加齢・老化の問題の1つは、サルコペニアやフレイルの他に「変形性関節症」があります。健康の為に、1万歩ウォーキングとして1時間前後これを実践する健康志向の人にも時々問題となる場合があります。勿論、色々な原因により徐々に関節が変形し、関節の痛みや腫れが起こる症状であり、関節表面の軟骨がすり減り、加えて関節内部を裏打ちする滑膜(かつまく)に炎症が発生して、次第に関節周囲の骨の変形も生じる場合は要注意です。変形は数年から数十年かけて進行すると言われていますが、最終的には関節の動きに制限が生じ、日常生活にも支障がある状態になります。60歳以上の人口の80%以上で、膝関節・肘関節・股関節・背骨に、変形性関節症のリスクがあるという統計があります。日本全体では、自覚症状がある患者数は1,000万人、自覚症状がない(レントゲン画像上の変化)人数も合わせると3,000万人規模の患者が、予備群(軍)とする専門家もいます。勿論、脚の関節類に不要な負担を掛けない歩行フォームやランニングフォーム、無理な負荷を避ける運動シューズや接地ダメージを少なくする足の運び方等は大切ですが、それ以上に食事や睡眠、その実践する場所や時間帯も大きな阻害要因になります。

老化 骨粗鬆症

老化によるアクシデントで事故後に気づく事が多い問題の2つめは、「骨粗鬆症」かも知れません。日本では、1,280万人(全人口10%)がこの病気の可能性があると言われています。予備群を入れた場合は、2,000万人という数値も現実の様です。(公益財団法人 骨粗鬆症財団)最近の研究報告では、サイクリングレースやバイクレース等の運動能力の高い選手(20~30歳代)でも骨密度の低下が起こり、疾患リスクが高いとの報告が知られています。また、最近では「うつ病」との高相関の報告もあります。通常は、20歳前後で骨密度はピークを迎えて、女性であれば51歳前後(閉経後)・男性であれば、女性程急激な骨密度の減少は見られませんが40歳後半から徐々に低下傾向が起こる事が知られています。骨は、「骨のリモデリング」と呼ばれる1~4年間周期で再生されると言われています。これは、破骨細胞(血球系由来の細胞)と骨芽細胞(間葉系幹細胞由来)のバランスにより骨の生成が調整されています。20歳前では、骨芽細胞が優位なので骨密度が増加して最大となり、その後、破骨細胞が徐々に優位となり骨の再生が徐々に低下して行くと推測されています。骨は、関節や筋肉と連携して各種の運動機能を支えますが、それ以上に「健康」維持を支える重要な重要臓器として注目されています。例えば、オステオカルシン(骨の非コラーゲン性蛋白25%を占めるカルシウム結合蛋白)と呼ばれる物質が、骨の中から血管を通じて全身に届けられ、「記憶力」「筋力」「インスリン分泌促進」更に「生殖力」迄、若く保つ力がある事が知られる様になりました。(脳・精巣・膵臓・肝臓・心臓・皮膚を活性化、若返り物質としても注目 ➔ 2007年米国コロンビア大学 ジェラルド・カーセンティ教授により発見)

個体差はありますが、一般的に視力・聴力・嗅覚・味覚・皮膚感覚(感触・温度)は、50歳前後から徐々に劣化する傾向が見られます。特に女性の場合、統計データからも男性より有利な結果を示しています。女性の視覚(色分解能含む)や聴覚については赤ちゃんを大切に育てる能力としての差では?と推測する専門家もいます。世界的な統計データでも女性の方が、男性よりは長寿となっています。

老化を科学的に評価する指標は、現在、精力的にその相関を解析するパラメータ研究が進展しています。ノーベル賞を受賞された山中伸弥教授の山中因子(Oct4・Sox2・Klf4・c-Myc)は、細胞の分化(目的の臓器へ変化)への重要なリプログラミング因子として発見されてiPS細胞が大きく進展して色々な分野で利用される様になりました。心筋細胞や網膜シート/細胞等の成果も「生成医療」の成果として発表されていますが、3次元的に目的の臓器を作り出すには、キメラの様な形でブタやその他の動物の特定臓器の遺伝情報を破壊(ノックダウン)し、そこに人間の臓器の遺伝情報を入れる等の手法が必要であり、この研究が現在精力的に進められています。3次元の臓器が成長するには、その周辺細胞との相互作用も重要である事が示唆されていますが、時間とコストの関係から「ダイレクト・リプログラミング」と呼ばれる新しいコンセプトでその因子を特定する研究も注目されています。

老化との関係では、細胞の修復やホルモンバランス調整等の必要から、「生命は細胞内に『体内時計』を持っていて、遺伝子発現や生理的反応など多くの生体活動が24時間の周期、すなわち概日リズムで刻まれている」事が知られています。また、日本では問題となっている癌では、手術で発生した癌細胞を削除しても転移が起こり、状況により、原発癌とは違う別の臓器に新しい「癌細胞」が発現する事から、癌幹細胞の存在が注目されていて、その研究も世界的に進められています。細胞間伝達物質が、転移先の臓器を癌化し易い様に改変している可能性も仮説として報告されています。