Commentary

2024 / 4 / 02

 

ストレスとテンション 疾患リスク

 


子供の頃、発表会やスポーツ競技、運動会では好き嫌いはあっても多くの人が緊張状態を多かれ少なかれ経験していると思います。交感神経優位の状態は、心拍数UPや体温UPと運動機能のギアを上げる事に貢献しますので、瞬間的・短期的・適度であれば「テンションUP」は、脳を含めて良い心身の反応であり、身体に好影響を及ぼすと考えられています。しかし、緊張状態が長期的に継続して、リラックス出来ない状態、特に、自分の判断でそれを制御出来ない環境に置かれた場合は、逆にストレスUp or 慢性ストレス状態となり、「健康状態を悪化させて老化を加速」させてしまう事が知られています。

ラットによる動物実験を通して、ストレスが「脳」内部の炎症反応を発生させて「運動」がこれを抑制・解消するメカニズムについての研究報告があります。また、心理ストレスや喜怒哀楽といった情動が体の調節に影響を与えて、様々な身体反応を発生させる現象は「心身相関」と呼ばれていますが、脳皮質の内側前頭前皮質の中のDP/DTP領域から視床下部背内側部へ神経伝達路を通して、心理ストレスを受けた時にこの伝達路を通じたストレス信号の伝達が行われて、交感神経系が活性化するメカニズムが解明された等の報告があります。( ➡ DP/DTP:DP Dorsal Peduncular cortex 背側脚皮質/DTP Dorsal Tenia Tecta 背側蓋紐)

以下は、日本人のストレスの”MyVoice”によるアンケート過去3回分を示しています。職場環境・労働環境に関するストレスが、過去増加している事を示しています。金銭面でのストレスは、逆にやや減少している様です。しかし、個人差はありますが、ストレスが「健康」を阻害している事は科学的に動物実験でも示されています。人間は、テンションUPを状況により必要としていますが、長期化すればストレス or 慢性ストレスになり「健康阻害要因」として注意が必要です。つまり、その運動習慣や食習慣、生活環境・職場環境・睡眠・趣味により、ストレスの増減が大きく変わる事からこれを最小限 or 回避する事が可能という事でもあります。ストレスを上手にコントロールする事は、これを「ゼロ」と出来ない以上、健康維持には必須となります。

以下の表は、ストレス要因(ランキング)になります。そのレベルや大きさは、個人により変わりますが1つの参考になるかと思います。一般的には、楽しい事やワクワクする事、逆に、落ち込んだり、ショッキングな事、想定外の驚き等、短時間で感動したり嬉しい要素があれば「テンションUP」となり、逆の場合は、死別や失恋、親友との別れ等、「ストレス増加」の原因になる様な長く尾を引くイベントがこれに該当します。最悪なのは、慢性的にストレスが継続する状況で、職場や仕事の環境を変えられない場合となります。住んでいる国や社会環境、生活環境、所属するコミュニティへの貢献やその価値観にもよりますが、ストレスを意識してその減少や緩和を考えて見て下さい。

日本の医師の平均寿命が、一般の人に比較して10年近く短いという統計データがあります。TVや映画でも良く取り上げられる作品に描かれている医師は、「死に直面」した患者の命を救うのに全力を尽くします。緊急医療の現場では、睡眠時間を削ってその救命処置に対応する姿が描かれている作品が多くあります。また、癌に罹患すると30%の人が、他界するという現実があります。勿論、癌の削除が上手く行かない場合や癌幹細胞が隠れている場合は、癌の再発リスクが高く、多くの場合は、死に至る確率がUPします。ストレスが免疫力を低下させる事は動物実験でも明らかであり、医師や医療従事者、救命医療の関係者、また、癌患者の家族は、ストレスから完全に逃れる事は難しいという現実があります。重い疾患であったとしても、外科手術により、ある意味で再生医療的なアプローチで、多くの場合、「救命」が成功する可能性があります。米国では、リハビリテーションだけでは無く、プレハビリテーションの重要性を強調する医師も多くいます。これは、手術の前から体内の状態を改善しておいて術後の経過が良好となる様に準備しておくという考え方です。医師の多くは、深く広い医療知識があり、人により最新の論文をチェックしていると思いますが、健康知識や医療知識は重要ですが、知識は活用実践しなければ、テーブルの上に置かれた専門書や論文と同じであり、自分の健康や寿命を延ばす事には貢献しないという事が、医師の平均寿命が短い理由の1つです。日本でもこの善意の人達を守る意味で、医療現場の超過労働時間を制限する法律が成立しましたが、社会全体がこの事を理解しないと厳しい現実は変えられないと考えています。TV番組で、救急車をタクシー代わりに呼びつけたりする人が結構いる事を問題としていますが、病院や医療施設を含めて意識を変えないと医療費用の負担額は、米国並みに、今の8万円/人年(日本)が20倍程度(米国180万円/人年)に増加する流れになる危険性があります。

日本の医療費が、あまり負担しているという感覚にならないのは、多くの人が、今迄は「健康」であり、医療を利用せざるを得ない人を支援可能な人達が多くシステムが保険制度により守られていたからです。今後、多くの人が頻繁に病気になり、医療システムの稼働率の限界を超える日常が普通になれば、救急車を呼ぶだけで数十万円/回となり、医療費も数百万円/人年となる日がもう直ぐ来るかも知れません。(実際、専門家からは、今後の医療費UPを必要とする答申が国会へ提出されていますし、厚生労働省も資料を開示しています。選挙が近い為か?現時点では、現状維持微調整の料金体系で済みそうです。)

米国では、医療施設と実際に外科手術をする料金が、2つに分かれています。例えば、腹腔鏡手術では、痛みのある患部を参考にしながら疾患特定を数時間で実施します。CT・MRI、PET/CT等の新しい画像処理設備がある病院では、症状と画像から短時間で絞り込みが可能です。2~3人の医師が意見交換して手術の必要があれば、患者との間でインフォームドコンセントと呼ばれる直接Q&Aが複数の医師と交互にチェックするプロセスに入ります。何度も同じ事を聞かれますし、命にも関係するので専門用語で不安があれば確認する形を取ります。日本の医療システムに慣れた日本人は、どうして同じ様な質問を別の医師が何度もチェックするのか?と心の中で疑問に思うかも知れませんが、訴訟リスクのある米国では、慎重に判断するシステムが採用されています。これは、日本の様に医師任せでは無く、患者自体もある程度のその時の疾患を理解する事と手術により何が変わるのか?についての一定理解が必要とされるからだと想像します。アメリカンエクスプレスの様な海外手術を完全カバーした保険であれば、個室の利用を交渉してくれたりします。日本と違って、米国ではお金が無いと冗談でも言うと、直ぐに追い出されると米国に長く住んでいた知り合いから注意を受けました。大きな設備の病院であれば、空きがあれば、ホテルの様な部屋を割り当てて貰えます。当時、米国東海岸にいた取締役からは、米国では立派な病院の1つなので、大丈夫だとは言われて安心をしました。手術を担当する医師も優秀な医師で、腹腔鏡手術を230回/年程度の割合で成功しているので、問題無いと言われました。ヒラリーが担当するからと言われて、TVドラマのドクターXをイメージしました、手術前のチェック面談で、「私がロバート・ヒラリー」だと言われて、少し驚きました。「1ショット注射すれば、目が覚めた時には全て完了しているので安心しろ。」と言われて、目が覚めなければ…どうなる?まぁ、意識が戻らなければ嘘にはならないのだろうと覚悟を決めました。

米国では、腹腔鏡手術であれば、術後問題が無ければ、1~2日で退院となります。請求は、手術と病院利用料の2つからの請求があり、日本の常識に慣れた自分としては数百万円の額に少し驚きましたが、激痛から解放されて命も助かったのだから文句はありませんでしたけれども。日本でも薬剤処方に比較して手術は特殊だとは思いますが、金額差は強く意識する結果となりました。理研の先生(M.D., Ph.D.)と電話で会話すると「日本だったら手術を執刀したけど米国じゃだめだったなぁ…」と冗談を言われましたが、笑うと腹部に痛みを感じて複雑でした。ヒラリー医師は、2年前/2023年に引退した事がWEBに掲載されていましたが、米国テキサス州のヒューストン地区では有名な外科医師で、安心して大丈夫だと病院関係者から言われました。余談ですが、看護師とは、「ERやICUでは、手術室に移動する時、カメラが天井から患者を撮影するシーンが多いけど天井を見上げるシーンは新鮮だよね。」とか、退院の時、1Fフロアに移動するけど車椅子使う?と訊かれて、一生に一度のチャンスかも知れないから載せて欲しいとお願いしたら1F迄手押ししてくれたり、冗談を言って笑顔にしてくれたり、アメリカの医療看護師も超親切!だと感動した記憶があります。退院後は、ホテルorレストランも多くの米国人が優しく天使の様に接してくれて感謝しました。

新型コロナパンデミックは、世界に大きな被害を齎して痛ましい結果となりましたが、医療は大切です。
自分の健康状態を向上させておくという事は、将来、医療機関で治療や手術を受ける前のプレハビリテーションという捉え方も出来るかも知れません。結果的に、自分や家族の負担を減らして、生存確率をUPさせる事になります。相対的には、医療従事者の負担や心配を減らして、自分や家族・身近な人達の苦痛や負担を大幅に低減させる事になります。また、救急車両や病院のベッド・リソースを、それを本当に必要とする人達へ譲る事にもなり、社会全体が安定して余裕のある環境を構成する事になります。

昔、他界した祖母に対して、子供には大人のお箸は大きすぎて使いづらいよと文句を言った記憶があります。祖母は、笑いながら「天国のお箸は、もっと長いんだから今から練習しなさい。地獄では、短いお箸しか無いので、それを自分の為だけに使うので争いが絶えないのよ。」と「?えっ!じゃ長いお箸は、不便じゃないの?」「天国では、自分の為では無く、自分以外の人の口に食べ物を運んで助け合うから、長くても問題無いのよ。そして、天国では多くの人の笑顔と笑いが絶えないのよ。」…「えっ!じゃ、短いお箸しか使えない人は地獄に行くの?自分の事ばかり考えている人で溢れているから…?」と。

ストレスは、神経細胞や脳を劣化させる事が知られています。人間の持っている驚くべき機能の1つは視覚能力です。現在の「健康阻害要因」の1つである「ストレス」は、血管や脳にとって最大の脅威ですが、それは、「眼」やその視覚神経にも大きな障害となる場合があります。ご存知かも知れませんが、今から46億年前に「地球」が誕生して、それからやっと39億年前に「生命」が誕生したと想定されています。バクテリアや藻類、単細胞動物が、長く海を中心に生存していたと考えられています。それから長い時間が経過して、10億年前にやっと多細胞生物、海綿動物の類のナマコの様な存在が出現したと考えられています。そして約5億4千万年前に、地球上に突如として、歯や触手や爪、頑丈な顎などを持ち、捕食相手を動き回って捕獲可能な多種多様な生物が出現する事になったのだと言われています。これは、「カンブリア紀の大爆発」と呼ばれる考古学的な考察検証から科学的根拠のある歴史となっています。

カンブリア紀の「眼の誕生」こそ生物の多様性と進化に深い関わりがあるとする『眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く』著者 アンドリュー・パーカー , 渡辺 政隆 訳, 今西 康子 訳 には、個体として生き延びる事、至上命題として他者に食べられない事、そして他者を効率良く捕食する武器としての「眼」が重要な存在となったと記述されています。視覚情報・嗅覚情報・味覚情報・音声情報・皮膚感覚情報は、その多くが、脳の視床下部周辺へと接続されて伝達されている事が知られています。

記憶に関係する海馬や脳下垂体、扁桃体、視床と呼ばれる重要な部位が、身体の恒常性維持や健康な生活を起こるには、必要不可欠な機能が集まっています。特に、下垂体は、前葉と後葉に分かれていて、下垂体前葉からは、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)・成長ホルモン(GH)・甲状腺刺激ホルモン(TSH)・乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)・性腺刺激ホルモン(LH, SFH)、皮膚刺激・痛み抑制・免疫系制御(β-MSH・エンケファリン・エンドルフィン)が分泌されて、下垂体後葉からは抗利尿ホルモン(バソプレシン)・オキシトシンが分泌される事が知られています。甲状腺、副甲状腺、腎臓・副腎、すい臓、生殖腺・脊髄でも各種ホルモンは、産生され分泌されます。ホルモンは、今迄100種類程度発見されていますが、今後も新しく発見される可能性があります。ホルモンバランスが崩れると様々な疾患になる事が知られていますので、健康的な生活習慣を身につける事が大切です。前述した様にストレスが中長期的に増加蓄積されると慢性ストレスとなり、脳下垂体・下垂体~副腎へとホルモン刺激が伝搬されてコルチゾールの分泌を促します。短期的な緊張状態であれば、20~30分間で通常より2~3倍増加して徐々に低下しますが、これが頻繁に繰り返されて中長期化すると大きな問題になります。コルチゾールは、肝臓で糖の産生や脂肪分解による代謝UP、免疫抑制or抗炎症作用、筋肉の蛋白質代謝を支援すると考えられていますが、副腎が優先的にコルチゾール産生に集中対応する結果、副腎疲労と呼ばれる症状が頻発する様になると考えられています。副腎は、3~4cm程度の大きさでそれぞれ2つの腎臓(握り拳大)の上に乗っています。副腎は、外側に位置する副腎皮質と内部にある副腎髄質から構成されています。副腎皮質は、グルココルチコイド(主にコルチゾール)・ミネラルコルチコイド(主にアルドステロン)・アンドロゲン(主にデヒドロエピアンドロステロン及びアンドロステンジオン)を分泌します。これらは、細胞の遺伝子の転写・促進及び抑制を行い腎臓の電解質制御に貢献します。副腎皮質は、クロム親和性細胞で構成されており、カテコールアミン(主にアドレナリン,より少量のノルアドレナリン)を合成して分泌します。これらは、交感神経系の主要な作動性アミンとして知られています。(参考:MSDマニュアル、Akira Magazine)

ストレス解消法としては、定期的な有酸素運動(早めのウォーキング・ジョギング・ラニング、縄跳び、エアロビクス or サイクリング)や1~2時間以上のスポーツが有効とされています。また、音楽・アロマ・映画鑑賞・読書も人により効果があるという報告があります。また、質の高い睡眠は、入浴・サウナや少し早めの夕食、抗酸化物質や発酵食品を中心にしたカロリーを抑えたボリュームの少ない食事が良いと言われています。

以下の地図は、ストレスの多い国を示した図になります。日本は、中程度のストレス分類ですが、アフガニスタンは、ストレスの大きな国とされています。エクアドル・トルコ・ギリシャ、米国・ベネズエラ・ボリビア、中国、エジプト、タニザニア・ザアンビア、セネガル、ガーナ、タイ・マレーシア、オーストラリアと続きます。日本は、北欧やEUに近いストレスレベル(中程度)となる様です。

以下、ご参考迄にチェック頂くと良いかも知れません。

順天堂大学
なぜ日常の運動習慣がストレスによる高血圧発症を防ぐのか? https://www.juntendo.ac.jp/news/14319.html

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
名古屋大学大学院医学系研究科統合生理学
心と体をつなぐ心身相関の仕組みを解明 ―ストレス関連疾患の新たな治療戦略へ― https://www.amed.go.jp/news/release_20200306-02.html