Commentary

2024 / 6 / 21

 

日本人の高齢化・バイタル・脳 Part3

 


米国カリフォルニア大学らの研究グループの報告によれば(認知症を発症していない55歳~91歳の877人:2005年~2013年迄の約8年間追跡調査)、認知症指標となる「リン酸化タウタンパク」が増えている場合の脈圧➡平均62.0mmHg(正常値平均57.4mmHg)・「アミロイドベータ1-42」のみ増えていた人の脈圧60.1mmHg・「リン酸化タウタンパク」のみ増えていた人の脈圧63.18mmHg・両方が増えていた人の脈圧69.7mmHg、どちらも正常であった人56.6mmHgとなったとの事です。最近の研究により、正常な人の脳内部のタウ蛋白質やアミロイドβは質の高い睡眠により排出されて蓄積されない事が分かっています。日本は、1987年迄、収縮期血圧180mmHg以上を高血圧としていましたが、2000年に日本高血圧学会は、これを140mmHgと引き下げて130~139mmHgを従来の正常高値から高値血圧と変更しています。これは、2017年頃から米国の高血圧の診断基準が140mmHg以上から130mmHg以上に引き下げられた事に追随する必要があったからだと言われています。米国での年間3,900億円程度だった降圧剤の売り上げが、基準値を引き下げた5年後には2兆1,800億円(現在レート換算)と5倍以上も膨らんだ計算になります。精神科医の和田秀樹医師が、『「健康常識」という大嘘』を執筆出版しています。20歳~80歳・90歳と同じ基準値を健康の尺度とする現在のやり方は、人間の体の加齢による生理的変化を無視した乱暴なやり方では無いのか?という疑問を投げかけています。あまり神経質になる必要は無いかも知れませんが、1つの参考意見だと思います。70~80歳になっても、現在の基準値に合わせた生活をしようとすると健康寿命・余命(寿命)が短くなるという数値を上げています。対処療法的に数値合わせをするのでは無く、健康とは何か?自分にあった最適解を見つけるのも大切かと思います。

上図は、高血圧症の患者と予備群の例となります。統計にもよりますが、血圧140/90mmHg以上(高血圧症)は、疾患リスク(脳心血管疾患)がある事が分かっています。高血圧の基準値は、2014年の基準値 I度高血圧から、II度 高血圧(160/100 mmHg)・III度 高血圧(180/110mmHg以上)へと変更になった様です。2019年英国政府のガイドライン/NICEでは、今回の改正を5年前に実施していましたが、日本も遅れてこの流れを参考にしている様です。

これは、副作用の心配のある降圧剤を多くの人が長期的に服用せざるを得ない現状を見て、専門医からも高齢者の生理的な変化を無視して治療対象とする事は結果的に健康長寿者を作らない方針・愚策と同じに見えるとの批判も一部にあった事も大きかった様に想像します。(『長生きしたければ高血圧のウソに気づきなさい』著者大櫛陽一医師)日本では、この基準により1,500万人以上の高血圧患者を作り出すとの問題点の指摘がありました。大規模な追跡調査によれば、「降圧剤を飲むと死亡率が5倍、脳梗塞の発症率が2倍」「薬で血圧を20mmHg以上、下げると危険が高まる(死亡リスク)」等の指摘が、他の医師からも出ていました。勿論、日本全体の医療費負担も大きいので、日本政府としては、製薬会社との関係から微妙な判断だった様に想像します。但し、血圧が高いという事は、疾患リスクも高いというデータがある事は、統計的な事実として認識する必要があります。問題は、血圧を強制的に下げる降圧剤で済むという単純な話では無いという点に注意が必要です。

基準値を変えれば、治療対象者が増加して、病院は常時一杯になります。その治療が長期化すれば、患者だけでは無く国民全体の医療費負担も増加します。勿論、血圧が高いという事は、体内中の血液状態や血管の弾力性、毛細血管・抹消血管の状態、心臓、細胞内ミトコンドリアやホルモンバランスが理想的な状態では無いという事を示していますので、1つの疾患リスクの指標としては、十分参考になると考えるべきです。

偏差値・相関・分布を全てのセルマトリックスで計算したヒートマップでは、血圧以外の相関も見えます。疾患リスクのグラデーションパターンにより悪化・維持・改善状況が比較可能になります。

血圧に注目した場合、Rsub0629-353は⑧となりますが、ヒートマップからは、疾患リスクが①となっている事が分かります。また、①は2番目②となります。3番目は⑥、4番目は⑤となります。基準値内であれば、安心する人が多いとは思いますが、健康診断は、病気の初期を見つけようとする目的で実施されていますので、基準値以内の人の状態や疾患リスクを見るものではありません。
全てのバイタルや血液データ項目のマトリックスの相関を取り偏差値・分布をビッグデータ化する事は意味があります。

2024年4月8日、日本高血圧学会の国際誌「Hypertension Research」(電子版)によれば、横浜市立大学医学部公衆衛生学・大学院データサイエンス研究科の桑原恵介准教授らの研究グループは、関東・東海地方に本社のある企業等10数社による多施設共同研究(J-ECOHスタディ/職域多施設研究:関東・東海地方に本社がある企業の社員・従業員約10万人を対象とした大規模職域コホート研究、産業医の協力による研究)に参加した高血圧の治療中ではない労働者81,876人を最大9年間追跡調査し、「少し高い血圧」の段階から脳・心血管疾患の発症リスクが高まる事を今回の調査結果から確認する事ができたとしています。また、脳・心血管疾患を発症した人の数は、血圧分類の「少し高い血圧」から「軽め高血圧」迄の労働者に多い事をデータから裏付けされたとしています。血圧・心拍数は、体内の状態や変化を示す重要な指標となります。勿論、血圧だけで全てが確定する訳ではありませんが、今後、ご自分の疾患リスクがどう顕在化するかの手掛かりになります。逆に、血圧や心拍数の健康管理を上手に行う事で、疾患リスクを大幅に減少させる事が可能となります。

日本では、高血圧の基準値が過去厳しい数値でしたが、欧米の最近の基準値を参考にする形で2024年4月より見直されました。これは、治療薬の対象者をある程度絞るという意味合いが強いと言われています。実際、専門家の中には、降圧剤を長期的に服用する事が、少し、肺癌・胃癌・腎臓癌等の罹患リスクと相関があるのでは?という研究報告が出ています。勿論、長期間の降圧剤服用は、加齢により高齢化が進むので、その影響も大きいという分析もあります。高齢者であれば、自律神経自体が、収縮期血圧を少し上昇させる傾向が見られますので、無理に降圧剤で下げる必要は無いのでは?という見解もあります。事実、降圧剤を長期服用していても心疾患・脳疾患等の疾患リスクをそれ程、低減出来ていないのでは?というデータもあります。

自律神経が正常に機能していれば、就寝中は収縮期血圧・拡張期血圧は日中より低下します。就寝時は、心拍数や呼吸数も同様に下がります。加齢が進めば、体内の血管・その他の臓器の状態により、ある程度UPする傾向があると言われています。しかし、毛細血管のゴースト化や動脈硬化でも高血圧になる事が知られていますので、降圧剤を使わずに血圧のコントロールをする事は大切です。

右図は、正常な人の1日血圧変動の例になります。収縮期血圧・拡張期血圧は、起床後に上昇して120/70 mmHgあたりで安定します。朝食・昼食・夕食後は、多くの場合血圧は低下します。運動後や入浴後やや上昇し、血圧低下が知られています。
また、飲酒・喫煙・排便・膀胱充満時にも血圧変動が知られています。測定する場合は、これらの変動要因を避ける形で、同じ時間帯に測定する習慣を持つと良いと思います。血圧に関しては、測定箇所により値が変化します。スマートウォッチは、誤差が大きくあまり参考にはならないかも知れません。
また、脈圧や平均血圧も時々チェックし体内の変化を知る事は、健康管理には有効です。